2024
■マクロファージと侵害受容器ニューロンは、関節の滑膜において循環する免疫複合体に反応して滑膜を防御する (Nature Immunology) 2024.12.1 Hasegawa T, Lee CYC, Hotchen AJ, Fleming A, Singh R, Suzuki K, Yuzaki M,.., Clatworthy MR. Macrophages and nociceptor neurons form a sentinel unit around fenestrated capillaries to defend the synovium from circulating immune challenge. Nat Immunol. 2024 Dec;25(12):2270-2283. doi: 10.1038/s41590-024-02011-8.. .感染症や自己免疫疾患など、さまざまな全身性の病態が関節痛や炎症を伴います。多くの場合、循環している免疫複合体が介在しているが、これがどのように関節に到達して炎症や疼痛を引き起こすのかは不明でした。この研究では全層滑膜イメージング法を確立し、PV1+の柵状毛細血管からは循環する免疫複合体が滲出し、CGRP陽性侵害受容器ニューロンと3つの異なるマクロファージサブセットがその周囲にセンチネルユニットを形成していることを明らかにしました。マクロファージは好中球の動員を指揮してCGRP陽性侵害受容器ニューロンを活性化し、逆に分泌されたCGRPが免疫反応を増強するクロストークも明らかになりました。慶應大学医学部リウマチ免疫内科からイギリスMRC-LMBに留学中(今度独立)の長谷川先生の素晴らしいお仕事です。鈴木邦道・柚崎が少しだけお手伝いしました。
■カイニン酸受容体は非チャネル・非代謝型作用によって、小脳での登上線維シナプス形成と可塑性を制御する (Cell Rep) 2024.6.30 Kakegawa W*, Paternain AV, Matsuda K, Isabel AM, Iida I, Miura E, Nozawa K, Yamasaki T, Sakimura K, Yuzaki M**, Lerma J*. Kainate receptors regulate synaptic integrity and plasticity by forming a complex with synaptic organizers in the cerebellum. Cell Reports 43:114427, 2024.
カイニン酸型グルタミン酸受容体(KAR)は、イオノトロピック作用やメタボトロピック作用を通じて、様々な精神神経疾患や神経疾患に関与しています。しかし、AMPA型やNMDA型グルタミン酸受容体と比較すると、KARの生物学的な性質は多くの点で未解明なままです。本研究では、KARが、イオンチャネルやメタボトロピック作用とは別に、小脳の登上線維(CF)-プルキンエ細胞(PC)シナプス形成やシナプス可塑性に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。KARサブユニットGluK4のアミノ末端ドメイン(ATD)は、CFが分泌するC1ql1に結合し、さらにPCの樹状突起に発現する接着型Gタンパク質共役型受容体Bai3と会合することを発見しました。GluK4を欠損したマウスでは、シナプスでのC1ql1とBai3とともにCF-PCシナプス数が減少し、シナプス可塑性と小脳依存性の眼球運動学習が障害されます。驚くべきことに、GluK4のATD(細胞内ドメインやチャネルドメインを持たない)をPCに発現させると、GluK4 KOマウスの表現型は回復しました。これらの知見は、KARがKAR-C1ql1-Bai3複合体を形成することによってシナプスの足場として働いていることを示しています。スペインのJuan Lerma研との共同研究で、掛川准教授とAna Paternainが第一著者です。
■GluD受容体がリガンド作動性イオンチャネルとして働くことを示す証拠はない (PNAS) 2024.6.30 Itoh M, Piot L, Mony L, Paoletti P*, Yuzaki M.* Lack of evidence for direct ligand-gated ion channel activity of GluD receptors Proc Natl Acad Sci USA 121:e2406655121, 2024.
デルタ受容体(GluD1およびGluD2)は、イオンチャネル型グルタミン酸受容体ファミリーのメンバーであり、多くの神経発達障害や精神疾患において中心的な役割を果たしています。GluDは、イオンチャネル活性とは関連無く、分泌型シナプス形成分子であるCblnやニューレキシン(Nrxn)とシナプスを越えた三者複合体を形成することにより、シナプスの形成と成熟を制御します。一方、近年、GluD2がNrxn/Cbln/GluD2複合体を形成したときにのみ、D-セリンやグリシンに応答するイオンチャネルとして機能することが報告されました。今回、私たちは、異所性細胞や神経細胞においてD-セリンやグリシンによって誘発される電流には、GluDはイオンチャネルとして直接関与していないことを証明しました。この発見は、現在進行中のGluDの機能に関する議論に重要な貢献をするものです。Pierre Paoletti研との共同研究で、伊藤さんとLaura Piotが第一著者として仕事を進めました。
■マウスの内側手綱核-脚間核経路におけるα3β4含有ニコチン性アセチルコリン受容体のシナプス外部への発現 (Sci Rep) 2024.6.20 Tsuzuki A, Yamasaki M, Konno K, Miyazaki T, Takei N, Tomita S, Yuzaki M, Watanabe M.Abundant extrasynaptic expression of α3β4-containing nicotinic acetylcholine receptors in the medial habenula–interpeduncular nucleus pathway in mice. Scientific Reports 14:14193, 2024..
内側手綱核-脚間核経路のニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は、ニコチン関連行動において重要な役割を果たしている。この経路ではnAChRのα3サブユニットとβ4サブユニットが多く発現する。これまでα3β4含有nAChRの発現パターンは、特異的な抗体が利用できなかったため、ほとんど不明であった。今回、新規の特異的抗体と、グリオキサール固定法を用いて、この経路におけるα3β4含有nAChRが主にシナプス外(extrasynaptic region)にあることを明らかにした。本研究は特別推進研究の一環として、北海道大学渡辺研の山﨑先生が中心となって行われた仕事です。
■LGI1は、神経活動に応じて軸索から分泌されグルタミン酸放出を抑制する (Cell Reports) 2024.5.28 Cuhadar U, Calzado-Reyes L, Pascual-Caro C, Aberra AS, Ritzau-Jost A, Aggarwal A, Ibata K, Podgorski K, Yuzaki M, Geis C, Hallerman S, Hoppa MB, de Juan-Sanz J. Activity-driven synaptic translocation of LGI1 controls excitatory neurotransmission. Cell Rep. 43:114186, 2024..
LGI1は細胞外足場タンパク質に属するシナプス形成分子の一つである。LGI1は神経活動に応じて分泌されてシナプス形成を促進し、グルタミン酸放出を抑制することが分かった。面白いことにCbln1はtetanus toxin (TeNT)では阻害されず(VAMP1-3非依存)、Syntaxin-4とSNAP49に依存したSNAREによって分泌されることを以前に報告した。これに対してLGI1の分泌はTeNTで部分的に阻害され、SNAP29には依存しないことから、別々のSNARE複合体によって放出されることがわかった。本論文では柚﨑研はSNARE複合体の解析技術で共同研究を行った。
■CPTXは、脊髄損傷モデルマウスに対するiPS移植細胞へのシナプス形成を促進する (Stem Cell Reports) 2024.2.3 Saijo Y, Nagoshi N, Kawai M, Kitagawa T, Suematsu Y, Ozaki M, Shinozaki M, Kohyama J, Shibata S, Takeuchi K, Nakamura M, Yuzaki M, Okano H. Human-induced pluripotent stem cell-derived neural stem/progenitor cell ex vivo gene therapy with synaptic organizer CPTX for spinal cord injury. Stem Cell Reports S2213-6711(24)00010-9, 2024..
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来の神経幹/前駆細胞(NS/PC)の移植は、脊髄損傷(SCI)モデル動物において有望視されている。運動機能の回復には、移植した神経細胞と宿主神経細胞との間に機能的なシナプス結合を確立することが重要である。本論文では、柚﨑研が開発した人工シナプスコネクターCPTXをhiPSC-NS/PCsにあらかじめ発現させておいてから移植するというex vivo遺伝子治療を開発した。免疫不全トランスジェニックSCIモデルラットを用いて、組織学的および機能的解析を行ったおところ、CPTX発現hiPSC-NS/PCsの移植部位における興奮性シナプスの形成が有意に増加することが明らかになった。また、逆行性単シナプスを追跡したところ、CPTXによって移植ニューロンが周囲の神経路に広範に統合されることが示され、運動機能や脊髄伝導も改善した。本研究は、整形外科西條さん、岡野研との共同研究です。
■DSCAMは、バーグマングリアにおけるGLASTのシナプス周囲への局在を制御してシナプス形成に関与する(Nature Commun)2024.2.3 Dewa KI, Arimura N, Kakegawa W, Itoh M, Adachi T, Miyashita S, Inoue YU, Hizawa K, Hori K, Honjoya N, Yagishita H, Taya S, Miyazaki T, Usui C, Tatsumoto S, Tsuzuki A, Uetake H, Sakai K, Yamakawa K, Sasaki T, Nagai J, Kawaguchi Y, Sone M, Inoue T, Go Y, Ichinohe N, Kaibuchi K, Watanabe M, Koizumi S, Yuzaki M, Hoshino M. Neuronal DSCAM regulates the peri-synaptic localization of GLAST in Bergmann glia for functional synapse formation. Nat Commun. 15:458, 2024..
中枢神経系では、アストロサイトがシナプス間隙からグルタミン酸をクリアランスすることにより、適切なシナプス機能を実現します。しかし、アストロサイトのグルタミン酸トランスポーターGLASTがシナプス周囲でどのように機能しているかは、依然として不明でした。この論文では、プルキンエ細胞に発現する細胞接着分子(DSCAM)が、バーグマングリアに発現するGLASTの局在を制御することによって、登上線維ープルキンエ細胞のシナプス形成と小脳運動学習に関与することを示しました。星野研の出羽さんによる膨大なお仕事です。柚﨑研は掛川が電気生理学的解析と眼球運動学習試験を担当しました。
■生きたマウス脳における内因性神経伝達物質受容体の生体直交化学標識化(PNAS)2024.1.31 Nonaka H, Sakamoto S, Shiraiwa K, Ishikawa M, Tamura T, Okuno K, Kondo T, Kiyonaka S, Susaki EA, Shimizu C, Ueda HR, Kakegawa W, Arai I, Yuzaki M, Hamachi I. Bioorthogonal chemical labeling of endogenous neurotransmitter receptors in living mouse brains. Proc Natl Acad Sci USA. 121:e2313887121, 2024..
遺伝子操作なしにタンパク質を共有結合で化学標識する方法は、受容体を分析するための強力な方法である。しかし、脳における選択的な標的受容体標識はまだ確立していない。京大・浜地研の野中さんが主導して行った本研究では、リガンド指向性化学反応を用いて、生きたマウスの脳内で合成プローブを標的内因性受容体に選択的に結合させることができることを示した。柚﨑研の掛川、荒井はCRESTとERATOでの共同研究の一環として、本研究において化学標識によって受容体の機能が変化しないことを示した。
■抑制性シナプスにおけるGluD1のもう一つの隠された顔(Cell Research)2024.1.24 Masayuki Itoh, Michisuke Yuzaki. The hidden face of GluD1 at inhibitory synapses. Cell Res. 2024 Jan 23.
δ型グルタミン酸受容体(GluD1とGluD2)はイオンチャネル型グルタミン酸受容体に属するものの、グルタミン酸と結合しないことから長年孤児受容体と呼ばれてきた。GluD2は興奮性シナプスにおいて、①シナプス前部から放出されるCbln1と結合してシナプス形成と維持を制御する、②グリアが放出するD-Serに結合してシナプス可塑性LTDを誘導する、という働きを示すことが分かっていた。面白いことに、GluD1は抑制性シナプスにおいて、①シナプス前部から放出されるCbln4と結合してシナプス形成と維持を制御する。しかしGluD1がシナプス可塑性を制御するのかは不明であった。今回、Piotらによって、GluD1は、②GABAと結合して抑制性シナプスLTPを制御することが示された。この総説では、この論文を紹介するとともに残された課題についてまとめた。