2021
■樹状突起の発達過程とその分子機構ープルキンエ細胞をモデルとして(Cerebellum as a CNS Hub)2021.11.11
Takeo Y.H., Yuzaki M. (2021) Purkinje Cell Dendrites: The Time-Tested Icon in Histology. In: Mizusawa H., Kakei S. (eds) Cerebellum as a CNS Hub. Contemporary Clinical Neuroscience. Springer, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-030-75817-2_7.
神経細胞はそれぞれ特有の樹状突起を発達させることによって、適切な神経回路を形成します。しかしどのような分子機構によって樹状突起が形成されるのかについては十分に分かっていません。小脳プルキンエ細胞は高度に発達した樹状突起を生後に発達することから、樹状突起発達機構の研究には最適のモデルとして用いられてきました。この総説では、竹尾さん自らの研究成果とともに過去の研究をまとめ、今後の研究の方向性について議論をしています。
■AMPA受容体サブユニット特異的なエンドサイトーシスの仕組みを解明(J Biol Chem)2021.7.24
Matsuda S, Yuzaki M. Subunit-dependent and independent rules of AMPA receptor trafficking during chemical long-term depression in hippocampal neurons.J Biol Chem 297(2), 2021. doi:10.1016/j.jbc.2021.100949.
記憶・学習の基礎課程と考えられる長期抑圧現象(LTD)はシナプス後部におけるAMPA受容体の数が、神経活動によって内在化(エンドサイトーシス)されるために減少することがその分子レベルでの実体であると考えられています。従来はAMPA受容体のサブユニット毎に異なっている細胞内ドメインがリン酸化されることによって、AMPA受容体そのもののエンドサイトーシスが制御されると考えられていました。一方、AMPA受容体のサブユニットに関わらずAMPA受容体に結合するTARPのリン酸化が、エンドサイトーシスに必須であるAP-2をAMPA-TARP複合体に結合させることから、一体どのようにAMPA受容体のサブユニットがLTDを制御できるのかは謎でした。この論文では、AMPA受容体のGluA1サブユニットのリン酸化状態が、TARPとAP-2の結合の強さを変えることを発見しました。TARPはAMPA受容体のサブユニットを見分けることができませんが、AP-2はAMPA-TARP受容体のサブユニットごとのリン酸化状態を見分けることができるわけです。
当教室在籍時代から続けていた松田君(現・電気通信大学准教授)の仕事が結実した成果です。おめでとうございました。
■伊藤正男先生追悼特集号に寄せて(Neuroscience)2021.5.10
Nagao S, Hirai H, Kano M, Yuzaki M. Masao Ito-A Visionary Neuroscientist with a Passion for the Cerebellum. Neuroscience 462:1-3, 2021. Neuroscience. 2021. 5. 10. doi: 10.1016/j.neuroscience.2021.02.028. PMID: 33892899
学習機械としての小脳神経回路研究で世界を先導し、かつ日本の神経科学の発展に貢献された伊藤正男先生を追悼した特集号を編集しました。ご冥福をお祈りするとともに、火を絶やさぬよう研究を推進したいと思います。
■自閉症関連タンパク質CHD8は小脳発達と運動機能に必須である(Cell Rep)2021.4.6
Kawamura A, Katayama Y, Kakegawa W, Ino D, Nishiyama M, Yuzaki M, Nakayama KI. The autism-associated protein CHD8 is required for cerebellar development and motor function. Cell Rep. 2021. 4. 6. DOI: 10.1016/j.celrep.2021.108932
クロマチン修飾遺伝子であるCHD8は最も自閉スペクトラム症発症と関連した遺伝子の一つとして知られています。一方、自閉スペクトラム症患者では小脳における異常が古くから報告されているが、CHD8と小脳表現型との関連性は不明でした。本研究では小脳顆粒細胞特異的にCHD8遺伝子をノックアウトすることによって、CHD8遺伝子が小脳発達と運動機能に果たす役割について明らかにしました。九大中山研との共同研究です。掛川准教授が小脳の電気生理学的な表現型解析を担当しました。
■古きを壊して新しきを作る-神経細胞における活動依存性ライソソーム分泌(Neurosci Res)2021.4.15
Ibata K, Yuzaki M. Destroy the old to build the new: Activity-dependent lysosomal exocytosis in neurons. Neurosci Res. 2021 in press. doi.org/10.1016/j.neures.2021.03.011.
普段の生活においても、自然界においても、新しいものを作る時には、古いものを壊さなくてはならないことがよくあります。私たちの脳においても発達期や記憶・学習に応じて神経細胞の形態が変化する時には、必ず協調して、既に神経細胞やその周囲の細胞外基質の破壊現象が伴います。このようなスクラップアンド現象を担うメカニズムの一つとして、神経細胞からのライソソーム分泌が注目されています。ライソソームは通常は老朽化した細胞内産物の最終的な消化場所として知られていますが、神経活動亢進に応じて、ライソソームの内容物であるライソソーム酵素とともにシナプス形成分子Cbln1を放出することを私たちは見つけました(Neuron 2019)。本総説では、神経系におけるライソソーム分泌について概括しました。聖マリアンナ大学に移った井端さんが第一著者です。
■リガンド指向性2段階ラベリング法を用いたグルタミン酸受容体輸送過程の定量(Nat Commun)2021.2.5
Ojima K, Shiraiwa K, Soga K, Doura T, Takato M, Komatsu K, Yuzaki M, Hamachi I, Kiyonaka S. Ligand-directed two-step labeling to quantify neuronal glutamate receptor trafficking. Nat Commun. 2021 Feb 5;12(1):831. doi: 10.1038/s41467-021-21082-x.
私たちの脳では興奮性神経伝達はグルタミン酸によって担われており、とりわけAMPA型グルタミン酸受容体は速い神経伝達を伝える重要な受容体です。シナプス後部におけるAMPA受容体の数が長期的に変化することこそが、記憶の最も基礎的な過程と考えられています。この受容体の輸送過程を可視化して定量するために、2017年に新しい化学ラベル化法を開発しました。この論文ではこのラベル化法をさらに改良し、より短時間のラベリングが可能となりました。またNMDA受容体のラベル化法も示されています。本研究は名古屋大清中研によるもので、京大浜地研との共同研究の成果です。
■新しいエピトープタグの開発と有用性(Bioorg Med Chem)2021.1.15
Thimaradka V, Hoon Oh J, Heroven C, Radu Aricescu A, Yuzaki M, Tamura T, Hamachi I. Site-specific covalent labeling of His-tag fused proteins with N-acyl-N-alkyl sulfonamide reagent. Bioorg Med Chem 2021 Jan 15;30:115947. doi: 10.1016/j.bmc.2020.115947.
タンパク質の特定の部位に、新しい機能をもつアミノ酸残基を導入する技術は、さまざまな分野で重要です。このために、まずタンパク質の特定の部位にエピトープタグを導入することが行われます。このエピトープタグは、できるだけ本来のタンパク質の機能を損なわず、かつ特異的に化学修飾されることが必要です。本論文ではヒスチジン(H)とリジン(K)からなる、短いエピトープタグKH6やH6Kの有用性を示しました。本研究は京大浜地研との共同研究の成果です。