Published in Science
柚崎研と英国オックスフォード大学のアリセスク研が共同責任著者の論文が7月15日のオンライン版Scienceに掲載されました。本研究では、神経細胞と神経細胞の繋ぎ目である「シナプス」をつなぐ架け橋の構造を明らかにし、神経細胞が互いに連動して神経ネットワーク機能を調節する新しいメカニズムを解明しました。本研究成果は”This week in Science“でも「Transmitting signals across the synapse(シナプスを越えたシグナル)」として紹介されました。
シナプスでは、シナプス前部からグルタミン酸が放出され、シナプス後部のグルタミン酸受容体に結合することによって次の神経細胞に興奮が伝達されます。さらにシナプス前部からは、免疫系の「補体」に似た分子群も放出されてシナプス機能を調節することをこれまでに当研究室で明らかにしてきました。しかし、グルタミン酸を介した興奮伝達経路と、補体ファミリー分子によるシナプス調節経路がどのように連動するのかはよく分かっていませんでした。
小脳神経回路では、シナプス前部はシービーエルエヌ1(Cbln1)と呼ぶ補体ファミリー分子を放出し、シナプス前部に存在するニューレキシン(Nrx)という受容体に結合します。一方、Cbln1はシナプス後部のデルタ2型グルタミン酸受容体(GluD2)にも同時に結合してシナプス形成を引き起こします。今回、Nrx-Cbln1-GluD2という3者複合体の構造が初めて解き明かされました。その結果、Cbln1は接着剤のようにシナプス前部とシナプス後部をつなぎとめる働きをするのみでなく、シナプス後部のGluD2の働き方そのものを精妙に調節することによって、シナプスにおける興奮伝達の起きやすさ(=記憶・学習過程)を制御することが明らかになりました。
補体ファミリー分子・Nrx・グルタミン酸受容体は小脳以外のさまざまな脳部位にも存在しています。従って、今回明らかになった、補体ファミリー分子によるグルタミン酸受容体の機能調節メカニズムはさまざまな神経回路でも同様に働いていると予想されます。
07/15/2016 10:09 AM | What's New